焼入れ解析

1.背景と目的

焼入れとは、高温に加熱した金属を急激に冷却して硬化させるプロセスです。

冷却媒体としては、水や油が使われます。高温金属の表面では高温に触れた液体が激しく沸騰します。この蒸気発生が著しい場合は、高温金属表面が熱伝達率の小さい蒸気膜で覆われる膜沸騰状態となり、冷却が妨げられるために硬化が不十分となります。

また、この効果が金属表面上で偏って発生すると強度にムラが生じます。

このムラの発生では、金属表面における以下の3つの量が互いに影響しあうため、これらを一体的に解くシミュレーションが求められています。

(1)温度分布
(2)蒸気発生量分布
(3)気相/液相それぞれの流速分布

2.解析の概要

本解析では、静止した冷媒に高温金属(任意の熱物性)を設置した系における温度分布、蒸気量(ボイド率)分布、気液それぞれの流速分布を求めました。

解析で用いた Advance/FrontFlow/MP は 二流体モデル に基づく混相流解析ソフトです。本解析では、Advance/FrontFlow/MP に実装されている膜沸騰・遷移沸騰・核沸騰のそれぞれに対する沸騰モデル、固体熱伝導解析との熱連成解析機能を使用しています。

図1.温度分布

温度分布の時間変化アニメーション(単位[℃])。時間の経過と共に冷媒の高温領域が広く形成されていることがわかります。また、金属が四隅から冷却されていることがわかります。

図2.蒸気量(ボイド率)分布


ボイド率(気体の体積分率)の分布の時間変化アニメーション。時間の経過と共に金属側面と金属底面付近において蒸気量の多い領域が形成され、金属側面と金属底面付近において蒸気の滞留時間が長いことがわかります。

図3.気相の流速分布(カラーレンジは 0~0.2m/s の範囲で表示)

気相の流速分布の時間変化アニメーション。初期状態では蒸気が存在しないために流速はゼロですが、 時間の経過と共に金属表面付近で発生する蒸気の流れ場が形成され、 最終的には凝縮していることがわかります。 また、金属底面の中心付近の蒸気は逃げ場がないため、沸騰が持続している 2.9s、3.9s、4.6s で大きな速度が発生する結果になっています。

図4.液相の流速分布(カラーレンジは 0~0.04m/s の範囲で表示))

液相の流速分布の時間変化アニメーション。 初期状態では流速はゼロですが、発生する蒸気に駆動され金属側面に沿って上昇流が形成され、金属上面付近では中心軸付近で下降する低温液体の渦が発生していることがわかります。

3.考察、今後の課題

結果より、金属側面と金属底面付近において蒸気の滞留時間が長く、金属上面付近では中心軸付近で下降する低温液体の渦により金属が冷却されることがわかりました。

この結果は、金属の初期温度、姿勢、熱物性、冷媒温度、攪拌などによって変化するため、それぞれのケースに応じた最適な冷却条件を設定することによって、強度のムラや変形の発生を抑制することができます。

4.詳細資料のご希望は

このベンチマーク結果に関する詳細な情報をご希望の方は、以下の問い合わせ窓口より、「焼入れ詳細資料希望」と記載の上、お問い合わせください。

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