過酷事故時原子炉建屋・格納容器の熱流動解析コード Advance/BAROC
1. 概要
Advance/BAROC は原子炉建屋・格納容器内に特化した 3 次元圧縮性流動解析ソフトウエアです。
独自開発した数値計算法(ECBA 法)により高速化に成功、さらに、STL データから解析形状の設定が容易に行えます。また、原子炉建屋及び原子炉格納容器での現象に特有な水蒸気凝縮や壁構造物熱伝達を考慮した解析や、乱流沈着、重力沈降、凝集を考慮した放射性物資のエアロゾル挙動などの解析が可能です。
- 3 次元熱流動解析は、原子炉格納容器および原子炉建屋の水素・水蒸気分布、セシウム挙動などを把握するうえで重要な解析項目
- そこで原子炉格納容器および原子炉建屋に特化した 3 次元圧縮性流体解析コード Advance/BAROC を開発
- 物理法則に則って計算しつつ実用に耐えうる計算時間で現象を解析できるコードとして新たに開発
- 計算速度を重視し、高速化のために各種工夫を施した数値計算法を独自開発(ECBA法)
- Advance/BAROC コードでは計算体系の構築や物理現象モデルは原子炉格納容器および原子炉建屋に特化
2. 特長
- 多成分系の3次元圧縮性流体解析が可能
- 圧力・流速・エネルギーが強く結びついた陰解法(ECBA 法)や最新の行列計算法などにより高速で安定な流体計算
- Soave-Redlich-Kwong 式、Peng-Robinson 式などの状態方程式により実在流体物性を考慮
- NASA 物性データベースより24 種類の化学種の物性データを内蔵
- 乱流沈着、重力沈降、凝集を考慮した放射性物質(FP)のエアロゾル挙動解析が可能
- k-ε モデルによる乱流解析(今後 RNG k-εモデル、Realizable k-εモデル、追加予定)
- 水蒸気凝縮や壁構造物熱伝達を考慮
3. 機能一覧
計算モデルの詳細は、こちらをご覧ください。
No. | 項 目 | 内 容 |
1 | 基礎方程式 | ● 多成分系ガスに対する 3 次元圧縮性流体に対する質量保存式、運動量保存式、エネルギー保存式 ● 成分ガス濃度に対する質量保存式 |
2 | 状態方程式 | ● 完全理想気体式 ● Peng-Robinson 式 ● Soave-Redlich-Kwong 式 ● NASA 物性データベースの 24 種の化学種物性 |
3 | 放射性物質(FP) | ● エアロゾル粒子に対するパッシブスカラーの質量保存式 ● 拡散沈着、重力沈降、熱泳動、拡散泳動、凝集を考慮 |
4 | 数値解法 (陰解法) | ● 圧力、流速、エネルギーが強く結びついた解法 (ECBA 法) |
5 | 乱流モデル | ● k-ε モデル |
6 | 水蒸気凝縮・熱伝達 | ● バルク凝縮・壁面凝縮モデル、壁構造物熱伝達モデル |
7 | 行列方程式反復解法ソルバー(注1) | ● BiCGSafe 法 ● BiCGstab (l) 法(l は残差多項式の次数で 2 以上) ● GMRES 法(並列計算のみ) |
8 | 行列方程式前処理法(注1) | ● ILU(n)法(n はフィルインレベルでゼロ以上) ● ILUT 法 ● Additive Schwarz 法 〈 部分行列直接法、ILU(n)法または ILUT 法との併用で利用 〉 ● SA-AMG 法(並列計算のみ) |
9 | 計算格子 | ● 構造格子 ● スタッガード格子 |
10 | 対流項の差分スキーム | ● 一次精度風上差分法 ● 2 次・3 次精度の制限関数 minmod 付 TVD 法 |
11 | 並列計算機能 | ● MPI ● 領域分割法 |
12 | 計算形状の取込 | ● テキストデータファイル ● 3D CAD で作成した STL ファイル(バイナリ形式)から形状データを取込可能 |
13 | 可視化 | ● 可視化ファイルは vtk 形式 ● 計算結果の可視化は ParaView(注2)を使用 |
(注1)行列方程式反復解法ソルバーと行列方程式前処理法には日本発の行列反復解法ライブラリを使用
Library of Iterative Solvers for linear systems, https://www.ssisc.org/lis/
(注2)ParaView は米国サンディア国立研究所、Kitware Inc. ロスアラモス国立研究所が
共同開発したオープンソースの可視化アプリケーションです。
4. 動作環境
No. | 項目 | 詳細 |
1 | 対応 OS | CentOS®*1 Linux release 7.6.1810 CentOS®*1 Linux release 8.4.2105 |
2 | MPI ライブラリ | インテル®*2 MPI Library for Linux OS, Version 2018 |
3 | Lis*3 | バージョン 2.1.3 |
4 | CPU | Intel Xeon Gold 5218 2.30GHz |
5 | Memory | 96 GB |
6 | 3D CAD ソフト | Autodesk Fusion®*4 2.0.18220 |
*1:CentOS は Red Hat, Inc. の登録商標です。
*2:インテルは Intel Corporation の登録商標です。
*3:Lis は日本で開発された数値解法の一種で、偏微分方程式の数値計算に現れる離散化された線型方程式および固有値問題を解くための並列反復解法ソフトウェアライブラリです。
*4:Autodesk Fusion® は Autodesk , Inc. の登録商標です。
5. 解析事例
- 5-1. サーマルキャビティ解析
- 5-2. 衝撃波管解析
- 5-3. ISP-47ThAI 試験国際標準問題に対する検証解析
- 5-4. 過酷事故時の原子炉建屋内水素・水蒸気分布解析(1F 1 原子炉建屋相当モデルを使用)
- 5-5. ブローアウトパネル作動時の原子炉建屋内水素濃度分布解析(1F2原子炉建屋相当モデルを使用)
- 5-6. NSPP エアロゾル試験の検証解析
- 5-7. 過酷事故時の原子炉建屋内に移行するセシウム分布解析(1F1 原子炉建屋相当モデルを使用)
- 5-8. 過酷事故時の原子炉建屋内におけるセシウムエアロゾル挙動解析(1F1 原子炉建屋相当モデルを使用)
6. 学会発表事例
- 格納容器原子炉建屋熱流動解析コード BAROCの開発(1) 3 次元熱流動解析技術(2022 年春の原子力学会)
- 過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋の安全性解析コード BAROCの開発(2)水素濃度分布の解析(2022 年春の原子力学会)
- 過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋の安全性解析コード BAROCの開発(3)セシウムの挙動解析(2022 年春の原子力学会)
- 過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋の安全性解析コード BAROCの開発(4)並列処理による高速化(2022 年秋の原子力学会)
- 過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋の安全性解析コード BAROC の開発(5)ISP-47ThAI 国際標準問題に対する検証解析(2023 年春の原子力学会)
- 過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋の安全性解析コード BAROC の開発(6)FPエアロゾル挙動の詳細解析(2023 年春の原子力学会)
- 過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋の熱流動解析コード BAROC の開発(7)ブローアウトパネル作動時の原子炉建屋内水素濃度分布解析(2023 年秋の原子力学会)
- 過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋の熱流動解析コード BAROC の開発(8)NSPP エアロゾル実験の検証解析(2023 年秋の原子力学会)
- 過酷事故時原子炉建屋・格納容器の熱流動解析コードAdvance/BAROC の開発(9)原子炉建屋内水素分布に与える水素流入個所の影響評価(2024 年春の原子力学会)
- 過酷事故時原子炉建屋・格納容器の熱流動解析コード Advance/BAROC の開発(10)原子炉ウェル上部のシールドプラグからの FP エアロゾル漏洩の過渡変化を模擬するための機能追加と事例解析(2024 年春の原子力学会)
7. 参考資料
- 三橋 利玄 “陰解法による 3 次元圧縮性流体解析の新手法 ー SIMPLE 法系列の限界を超えてー” , アドバンスシミュレーション Vol.28 , (2020)
- 大西 史倫、浜野 明千宏、高橋 淳郎、三橋 利玄 “過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋内の水素分布解析”, アドバンスシミュレーション Vol.29 ,(2022)
- 高橋 淳郎、大西 史倫、浜野 明千宏、三橋 利玄 “過酷事故時の原子炉格納容器・原子炉建屋内のCs挙動解析”, アドバンスシミュレーション Vol.29 ,(2022)
- 大西 史倫、浜野 明千宏、高橋 淳郎、三橋 利玄 “原子炉建屋・原子炉格納容器熱流体解析ソフトウエア Advance/BAROC による ISP-47 格納容器模擬試験の検証解析”, アドバンスシミュレーション Vol.30 ,(2023)
- 高橋 淳郎、清水 守、大西 史倫、浜野 明千宏、三橋 利玄 “原子炉建屋・原子炉格納容器熱流体解析ソフトウエア Advance/BAROC の FP エアロゾル挙動モデルの詳細化と並列計算による高速化”, アドバンスシミュレーション Vol.30 ,(2023)