半導体界面の電子状態解析(共同研究・事例提供:株式会社デンソー様)

近年、ハイパワー素子の開発が活発に進められており、その材料として炭化ケイ素 (SiC) が有望視されています。この材料の最大の利点は、絶縁膜( SiO2 )形成の際に、従来のシリコン素子で培われた熱酸化過程を応用できることにあります。  本計算事例では、SiC基板とSiO2膜がダングリングボンドなしで繋がる構造を作成し、Advance/PHASEを使って電子状態を調べました。その結果、基板の面指数によって大きな違いが生じることが明らかになりました。

 左図はSiC (0001)基板を用いた場合の原子配置と伝導帯の電荷分布を示しています。酸化膜内部の青丸で示したところに欠陥準位が生じていることが分かります。この電子状態は酸素原子を取り囲むように存在しており、酸素欠損の原因となる可能性があります。この様なふるまいは、SiC側と SiO2側とで、原子間のボンドの密度が異なることに起因しています。ボンドの密度はSiC (0001)とSiC (0001)で同一ですから、基板として後者を用いた場合にも、同様の結果が得られます。

 一方、右の図は基板の面指数を(1120)に選び、左図と同じ処方で電子状態を計算した結果です。この場合には、左図のような欠陥準位が発生しません。

 2つの計算結果にこのような違いが生じたのは、基板の面指数によって、原子間のボンドの密度に1割程度の差があるためです。  以上の結果は、 SiC (1120) / SiO2界面を使った方が、 SiC (0001) / SiO2界面を使うよりも、 欠陥密度が低い素子の作成が可能であることを示唆しています。

[参考文献]
Eiichi Okuno, Toshio Sakakibara, Shoichi Onda, Makoto Itoh, and Tsuyoshi Uda: Ab initio theoretical study of an oxygen vacancy defect at the 4H-SiC(0001)/SiO2 interface. Phys. Rev. B 79, 113302 (2009)

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